奥山かずさ『月刊』とグラビアを語る「以前は弱さなんて絶対に見せたくなかった」
文・取材=とり、写真=鷲尾太郎
9月30日、女優の奥山かずさが自身3冊目の写真集となる『月刊 奥山かずさ・想』(小学館)を発売した。奄美大島の大自然を舞台に、奥山かずさの内側にあるピュアな感情(想)を捉えた至極の一冊となっている。
前作『AIKAGI』(ワニブックス)から約1年。この短期間で、奥山かずさのグラビア表現はどのように変化したのだろうか。前作も振り返りながら、本作の撮影中に感じていた想い、また改めて見つけられたという"自分らしさ"について語ってもらった。(とり)
自分らしさと向き合う時間
――表紙にも選ばれている公民館でのカットは、撮影前に15分ほど、その場にひとり取り残されていたんだとか。
奥山:そうなんです。スタッフさんもみんな、私を置いていきなり出て行ってしまって……。何の指示もなかったですし、当然ながらスマホも持っていなかったので、15分間何をすればいいか分からず、とにかく不安でした。感じられるのは、畳の匂いと窓の外に広がる大自然だけ。それ以外、何も情報が入ってこないんです。時間がとても長く感じました。
――今の時代、スマホも見ずに何もしない時間なんて、なかなかないですしね。
奥山:はい。だからこそ、改めて自分と向き合う時間にもなったといいますか。例えば、ドラマの現場だと与えられた役を演じるよう求められますし、本作も撮影がはじまるまでは、グラビアもできる女優として、みなさんに評価していただける作品にしなければならないと、必要以上に力んでいました。そう考えている時点で、"何かになりたい自分"にしかなれないと頭では分かっているはずなのに。無意識のうちにカッコつけてしまうクセがあったんですよね。
――いい作品に仕上げたいがゆえの力みでしょうか?
奥山:そうですね。ありがたいことに、たくさんグラビアの現場を経験させてもらっているので、「今回は、こういうカットが求められているな」「こういうポージングをしたら、読者の方に喜んでもらえるな」というのが、だんだん分かるようになってきて。テクニックで誤魔化すじゃないけど、何もない自分のままでカメラの前に立つことに、難しさと恥ずかしさを感じていました。決めカットが必要な場合もありますし、求められる形を意識することが一概に悪いわけではないんですけどね。
――そのクセは、前作のときもあったんですか?
奥山:前作でお世話になったカメラマンの(中村)昇さんは、私が全力で決めたタイミングでは絶対にシャッターを切ってくれない人だったんです。はじめてお会いしたときからずっとそうで(笑)。でも、あがった写真を見たら、カッコつけていない隙間の姿が写っていたんですよ。それがすごく新鮮で。あえて決めの瞬間からズラして撮ってくださった昇さんのおかげでできた一冊でしたね。
――とはいえ前作がリリースされたあたりから、ほかのグラビアでも、徐々に表情がナチュラルになっている印象がありました。
奥山:私もそう思います。グラビアに限らず、もともと考え方が極端なところがあって。グラビアをはじめたときも、ずっとグラビアアイドルとしてのアイデンティティが必要だって思い込んでいました。でも、昇さんと出会ってから、少しずつそうじゃないんだと分かってきたんですよね。何事も力みすぎはよくない。0か100かで考えるのではなく、その間をとった50くらいがちょうどいいんだって。
――必要以上に力みすぎないって、頭では分かっていても、実行するのは難しいですよね。
奥山:難しいです。正直まだ模索中って感じです。本作のお話をいただいたときも、「もっとこうしたい」「こんなグラビアを撮ってみたい」といった自我は出てきていたんですけど、それを体現するにはどうすればいいのかが定まっていなかったですし、今撮ってもらって前作を超えるクオリティに仕上がるのか不安もありました。
でも、逆に模索中だったからこそ良かった気もしています。出来あがった本作を見返したとき、完璧すぎない50の状態を肯定してもらえた実感があったんですよね。前作から時間が開きすぎていたら、また0か100かの考えに囚われてしまったかもしれない。最初は「もう3冊目!?」と驚きはしたものの、このタイミングでお声がけいただいたのはラッキーでしたね。
――ちなみに、奥山さんがいちばん自分らしく、開放的でいられる瞬間とは、どんなときなんでしょう?
奥山:今までは、テンションがあがっているときだと思っていました。スポーツが大好きだし、体を動かして、何か刺激を求めて行動しているときがいちばん開放的だなって。でも、本作の撮影が終わってから考えてみると、実はそうじゃないような気がして。
私、たまに公園でボーッとしたり、寝たりすることがあるんです(笑)。何となく気分がいいからやっていただけなんですけど、公民館でひとり過ごしているときに、「もしかしたら、私にはボーッと過ごす時間が必要だったのかもしれない」って思ったんですよね。無意識のうちに自分を解放したくて、公園に足を運んでいたんじゃないかって。本作の撮影を通して、外に刺激を求めるだけじゃなく、自分の内側と向き合うことも大事なんだと改めて分かりました。だから今は、プライベートでも意識的にボーッとする時間をとるようにしています。
「私自身を撮ってほしい」
――撮影に行く前は、奥山さんからどういったご要望を出されていたんですか?
奥山:まず「カメラマンは絶対に桑島(智輝)さんがいい」とお伝えしていました。一度、雑誌のグラビアで撮っていただいたときから、桑島さんなら絶対いい仕上がりになる確信があったので、撮影中は基本、桑島さんに委ねさせていただきました。
湿度の高い場所で撮りたいっていうのも私からのリクエストです。グラビアっていうと、青い空、白い雲、広い海ってイメージがあるじゃないですか。でも私は、もうちょっとドロっとした場所の方が合う感覚があったんですよね。
――先ほど「カッコつけてしまう」といった話もあったように、王道すぎる場所だと変にかしこまってしまうとか?
奥山:そうですね。綺麗なロケーションだと、自分がその綺麗さに調和しなきゃいけないと構えてしまいます。ドロっとした環境が合うと感じたのは、前作の撮影時。泥水のうえで撮ってもらったとき、自分でも納得できるくらいいい表情ができたんですよ。
本作でいうと、川に浸かっているシーン。一見、綺麗な水が流れているように見えて、周りには工業用のダンプカーが捨てられていたので、石油も一緒に流れていたんですよね。しかもアブもたくさん飛んでいて、結構過酷な現場だったんです。私は自ら希望して行ったからいいものの、スタッフさんには申し訳なかったですね(笑)。
――それは大変ですね(笑)。
奥山:はい。あとは、前作からテイストを変えた作品にしたいとも思っていました。
――個人的に前作は「女優・奥山かずさ」、本作は「女・奥山かずさ」といった印象の違いがありました。
奥山:まさに前作は、表現力に注力して撮っていただきました。"女優としてのグラビア"も意識していましたし、私自身も、小説を一冊読んだ気になるような写真集になった実感がありましたね。それに対して本作は、ただ私が私として写っている写真集にしたかったんです。それをお伝えしたら、桑島さんが「だったら、衣装の数を少なくしてみようか」と提案してくださって。
――衣装チェンジが少ない分、奥山さんの表情に目がいきやすかったです。
奥山:写真集より断然ページ数の少ない雑誌の撮影よりも衣装点数が少なかったので、最初は不安もありました。やっぱり衣装の数が多いほど、自然とバリエーションの幅も広がるし、見応えにも繋がるじゃないですか。でも、実際に撮影していくと、衣装チェンジが少ないことによる安心感もあったんです。「この衣装を着ているうちに決めカットを撮ってもらわなきゃ」、「あとこの衣装とこの衣装が残っているな」……みたいな考えごとも一切必要ないから、大自然のなかで自分が抱く感情(想)に集中できたんですよね。
――最後の方に載っているベッドでのカットを見ていると、撮影の充足感が伝わってきます。桑島さんをはじめとするスタッフのみなさんとの信頼関係があったうえで、のびのびと自分を表現できたんだなぁと。
奥山:最後のシーンは、寝起きに撮られたガチすっぴんなんです(笑)。「すっぴんでも撮ってみる?」って話になったとき、私は「すっぴん風がいいです!」って強調していたのに。ホテルで寝ていたら、朝6時半にいきなりスタッフさんが私の部屋に集結して、桑島さんがカメラを構えて。めちゃくちゃ戸惑いましたけど、これくらいの勢いがなかったらすっぴんカットなんて撮ってもらえなかったと思うし、素敵な瞬間を残してもらえたので結果的にはよかったです(笑)。
――公民館に取り残されたり、寝起きのまま写真を撮られたり、お話を聞いているとすごい撮影ですよね(笑)。
奥山:そうですよね。まぁ、私もみなさんのことを信頼していたからこそ、身を委ねることができました。まだまだカッコつけたい気持ちもどこかにありましたし、むしろ、そこまでして真摯に向き合ってくださったんだと思うと、感謝の気持ちでいっぱいです。いろんな意味でアドレナリンが出まくる撮影でした。撮影から帰ってきたあと、しばらくもぬけの殻でしたよ(笑)。
――ひとつ、本作の内容とは関係ないかもしれませんが、オレンジのネイルをされているのがかわいいらしくて。これは奥山さん自身で塗られたんですか?
奥山:そうです!撮影当日に、メイクさんと「これかわいいかもね」って話になって、自分で塗りました。ジェルネイルとかおしゃれなものじゃなくて、普通のマニキュアなんですけど、これもまた綺麗すぎない感じがいいなぁと思って。
――そうですよね。用意された衣装と違って、ネイルには奥山さんのパーソナリティが表れている気がして、とても印象的でした。
奥山:ありがとうございます(笑)。私の場合、ヌーディな雰囲気のグラビアが多いですし、こういうネイルもあまりしないんですけど……。塗ってよかったです!
文・取材=とり、写真=鷲尾太郎
グラビアから得たもの
――グラビアデビューから約3年。「続けてきてよかったなぁ」と実感することは何ですか?
奥山:いちばんは、体型維持ができること(笑)。ストイックに体づくりを行っているわけではないですけど、常に気を遣ってはいますし、綺麗でいられるに越したことはないので。精神面でいうと、誤魔化せない自分と対峙できたことですかね。自分を曝け出すことで自我も芽生えますし、本当にやりがいしかありません。
――ここまで人物にフォーカスを当てた撮影っていうのもないですしね。
奥山:はい。ファッション系の撮影だと、メインは洋服ですからね。女優として演技をしているときは、私であってはいけないし。こうやって何気ない瞬間を撮っていただけるのはグラビアだけなので、毎回自分の表情にビックリしますよ(笑)。私、こんな顔で笑うんだって。自分ではなかなか見られない表情ばかりなので、私にとってはいいことづくめですね。
――本作は、1990年代後半から2010年ごろに一世を風靡した「月刊」シリーズとしてのリリースです。今、改めて昔の「月刊」を読み返すと、当時の感覚や時代の空気感みたいなものが伝わってくると思うのですが、もしかしたら本作も、時代を超えて見返される作品になるかもしれないですよね。
奥山:そうなってほしいですね。本作は、話題になって即重版するよりも、2021年代に発刊された「月刊」シリーズのいち作品として、長く評価されるのが理想だと思っています。10年後、20年後、再び手にとって見返してくれる人がいたら嬉しいですね。
――では最後に、自分と向き合い、ありのままの自分を写せた本作を、今後の活動にどう活かしていきたいですか?
奥山:表紙に選ばれているカットは、きっとグラビアをはじめた頃の私だったら、絶対に使わないでくださいって言っていたはずです。当時は弱さなんて絶対に見せたくなかったし、そんな姿を撮られないよう、常に身構えていましたから。でも少しずつ、カッコつけていない素の姿をカメラの前で見せられるようになりました。これは私にとって、とても大きなことです。
ありのままを曝け出すことへの不安は、まだあります。でも、こうしなきゃいけないといった偏った思い込みや、必要以上にかけすぎてしまうプレッシャーは全部取っ払っていきたいし、これからは、完璧すぎない自分をちょっとずつ肯定していきたいですね。本作は、まさにありのままの私を肯定してくれた写真集だと思うので、本作での経験を糧に、もっと深みのある人間に成長していきたいです。
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